最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)1344号 決定 1968年11月16日
本店所在地
大阪市東区釣鐘町二丁目四〇番地
フナイ薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
松岡利郎
同
平田武彦
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和四三年五月二〇日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申告があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人萩野益三郎の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
上告趣意書
法人税法違反 被告人 フナイ薬品工業株式会社
原判決は、被告人の控訴申立に対して控訴棄却の判決を言渡したのであるが、その量刑は重きにすぎこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。その理由は左のとおりである。
一、被告人会社において第一審判決認定のような法人税についての過少申告をするには、やむを得ない事情があつたことおよび、終局的に脱税し切るという程の気持はなかつた。したがつてあくどいたくらみなどをしていなかつたことは、第一審での証人大木重秋、藤沢秀夫の証言によつてきわめて明白である。
二、国税局の調査に対しては全会社を挙げて積極的に協力をした。第一審公判における検察官の意見陳述で、本件は一般の脱税例からみると、そう悪質でないので同情の余地はある旨を述べられたくらい異例の事件である。
三、国税局から新に納税告知書を受領するやその査定について多少の不満点がなくはなかつたけれども、あえて問題とせず直ちに承服して納税につとめた。
その明細は別紙(昭和四三年六月末現在のもの)のとおりであつて昭和四三年七月末に手形納付を現実に支払い残額は金二、三一三、二四〇円となつたが、この残額も九月に完済の予定である。
このような莫大な負担をしたにかかわらずこれが完納に今一歩というところまで漸くこぎつけられたのは被告人会社としては、この事件を契機として(イ)管理体制の強化(ロ)営業内容の是正(ハ)資金対策の改善等会社再建に努力したがためである。
それにしても右のような完納は会社にとつて社運をかけてのことであつた。その制裁的意義は十二分にあつたものと認められるのである。なおそのうえ地方税の増額納付をしなければならない次第である。しかるにそのうえさらに刑事罰として二、四〇〇万円という高額を科せられるのは容易ならぬことである。願わくは、当審においてはできるだけ減額の寛大な栽判をいただき、これまた立派に完納できるよう切望する次第である。
被告人フナイ薬品工業株式会社は設立昭和二六年(創業明治二八年)資本金一億円従業員数六二〇名で、永年にわたつて医家向医薬品の専門メーカーとしての全国の病医院よりなじまれ、殊に近年発売した前記新薬ソルコセリル注などは我国の治療医学に多大の貢献をしたことが認められている。常に新薬開発を社会的使命として、全国の病医院より寄せられる絶大なる支持と期待に副うべく日夜研究に努力している。世の医薬品メーカーが実に巨額の広告料を消費しているに反し、被告人会社では一切の大衆相手の広告をせず、専ら全国数十の国、公立大学附属病院等に納品し、広告に使う金はこれら大学の医学奨励金に活用している。そして最近西ドイツのシヤパー・ウント・ブルンマー社との技術提携によつて発売した循環器系疾患治療剤テオ・エスベリベンは目下全国各大学病院において優秀な治験例を示しつつあり必ずや近い将来臨床医学界に大きく寄与し得るものと認められる(本項記載の各事実は第一審公廷における証人国立大阪病院長阪大名与教授吉田常雄の証言、弁護人提出証拠領―置目録二九号ないし三四号参照)。
このような会社の企業は、消費享楽ないし不急不用のものと異り、いわば公共性の高いものである。したがつてこれが維持発展は社会的要請であるといえる。今もし高額の罰金納付のために、さらに被告人会社の業績にマイナスをもたらすようなことであれば、それこそ「角を矯めて牛を殺す」の遺憾事でなければならぬ。このことを公の立場からも強調せざるを得ないのである。
昭和四三年八月一日
右被告人代表者代表取締役 平田武彦
右弁護人 荻野益三郎
最高裁判所第二小法廷 御中